睡眠と健康
睡眠は、こども、成人、高齢者の健康増進・維持に不可欠な休養活動です。良い睡眠は、心血管、脳血管、代謝、内分泌、免疫、認知機能、精神健康の増進・維持に重要であり、睡眠が悪化することで、これに関連したさまざまな疾患の発症リスクが増加し、寿命短縮リスクが高まることが報告されています。また、良い睡眠は、労働災害や自動車事故など眠気や疲労が原因の事故や怪我のリスク低減にも役立ちます7)。さらに、睡眠は日中の活動で生じた心身の疲労を回復する機能とともに、成長や記憶(学習)の定着・強化など環境への適応能力を向上させる機能を備えているため、睡眠の悪化は成長や適応能力 の向上をも損なうことにつながります。
良い睡眠は、睡眠の量(睡眠時間)が十分に確保されているこ とと、良質の睡眠であることで担保され、不適切な睡眠環境、 生活習慣、嗜好品のとり方および睡眠障害の発症によりこれが 損なわれます。
日本人の睡眠の状況
6~8時間の睡眠時間がとれている人の割合(年代別)
わが国で毎年実施されている国民健康・栄養調査によると、 1日平均6~8時間睡眠がとれている人の割合は、年代ごとに 差はありますが総じて5~6割程度で、特に40歳以上60歳未満 の成人世代では、平成21年に比べて平成29年以降は減少してい ます。
睡眠で休養がとれている人の割合(年代別)
国民健康・栄養調査11)によると、睡眠で休養がとれている人の割合は年代ごとに差はありますが、おおよそ8割程度で、特に20歳以上の成人世代で7割程度と低く、年々減少傾向にあります。
睡眠で休養がとれている感覚(以下、睡眠休養感)は、睡眠時 間の不足だけでなく、睡眠環境、生活習慣、日常的に摂取する 嗜好品、睡眠障害の有無などのさまざまな要因により影響を受 けますが、将来の健康状態に関わることが明らかにされており、良い睡眠の指標となります。
睡眠の生理的基本特徴
必要な睡眠量(睡眠時間)と床の上で過ごす時間(床上時間)
一晩に眠ることができる時間には限りがあります。翌日に大事 なイベントがあるからといって、長く眠ろうとしてもなかなか 眠れないという経験は多くの人がされているでしょう。からだ が必要とする睡眠時間以上に眠りをとろうと床の上で長く過ご すと、「寝つくまでに長く時間がかかる」、「途中で目が覚め る時間(回数)が増える」、「熟眠感が減る」など、眠りの質 が低下することがわかっています。
必要な睡眠時間は年齢によっても変化する
夜間に実際に眠ることのできる時間は、加齢により徐々に短く なることが、脳波を用いて厳密に夜間の睡眠時間を調べた研究 で示されています。これによると、15歳前後では約8時間、25 歳で約7時間、 45歳では約6.5時間、65歳では約6時間という ように、成人後は20年ごとに30分程度の割合で夜間の睡眠時間 が減少します。
これと相反して、夜間に床の上で過ごす時間(床上時間)は、 20~30歳代では7時間程度ですが、45歳以上では徐々に増加し、 75歳では7.5時間を超える傾向があります14)。これらの調査結 果から、若い世代は床上時間の不足に伴い睡眠不足になりやす く、高齢世代では逆に必要な睡眠時間に比べ床上時間が過剰に なりやすいといえます。
さらに、加齢が進むと徐々に早寝早起きの傾向が強まり朝型化 することがわかっています15,16)。この傾向は特に男性で強く、 適切な睡眠習慣を考えるうえで年代別・性別の配慮が必要となります。
必要な睡眠時間は人それぞれ、季節によっても変化する
令和元年に実施した国民健康・栄養調査によると、睡眠時間が 6時間以上8時間未満の割合が、20歳~39歳で54.0%、40歳 ~59歳で47.7%、60歳以上で55.8%であり、6時間以上8時間未満の範囲に、およそ5~6割の人が当てはまります。他方で、 6時間未満の人も20歳~39歳で40.0%、40歳~59歳で49.5%、 60歳以上で 32.5%存在し、全体としては7時間前後をピークに した広い分布となっています。
睡眠時間は季節によっても変動し、夏季に比べて冬季に10~40 分程度、睡眠時間が長くなることが示されています17-21)。この 主な原因として、日長時間(日の出から日の入りまでの時間) の短縮が考えられています。逆に夏季には、睡眠時間は他の季 節に比べて短く、寝つきや眠りの持続が他の季節よりも難しく なることが示されており、日長時間の延長に加え、高温・多湿 な寝室環境も一因と考えられています。
適正な睡眠時間とは
複数の調査研究から、7時間前後の睡眠時間の人が、生活 習慣病やうつ病の発症および死亡に至る危険性が最も低く、 これより長い睡眠、短い睡眠のいずれもこれらの危険性を 増加させることから、成人においておおよそ6~8時間が 適正睡眠時間と考えられています。しかしながら、 適正な睡眠時間には個人差があり、6時間未満でも睡眠が 充足する人もいれば、8時間以上の睡眠時間を必要とする 人もいます。こうした個人差や、年齢や日中の活動量に よる補正を考慮すると、20歳~59歳の成人世代では、8時間より1時間程度長い睡眠時間も適性睡眠時間の範疇 と考えられるでしょう。主要な睡眠研究者の意見をまとめ 作成された、適正な睡眠時間における米国の共同声明でも、 6~8時間の睡眠時間を核としながら、成人世代では長め の睡眠時間(~10時間)、高齢者世代では短めの睡眠時 間(5時間~)も許容されています。
こうした睡眠充足の個人差を把握する目安として、朝目覚 めたときの睡眠休養感(睡眠で休養がとれている感覚)が 役に立つこともわかってきました。
参考